2007年9月22日土曜日

最後の息子 / 吉田修一



小学生の頃、偶然テレビで見た「フレンズ」という映画を、最近よく思い出す。この映画は、ぼくや右近、それに大統領が生まれた年に撮られたもので、フランスの田舎町が舞台になっている。優れた映画だとは言えないが、生涯忘れられないだろう、あるシーンをぼくはこの映画の中に持っている。


これは、家出をした十四歳の男の子と女の子が、田舎で二人だけの暮らしを手に入れようとする物語だ。廃屋に住みついた金もない彼らは、愛だけで暮らしていこうとする。しかし、そんな生活が長続きするわけもない。男の子が市場から盗んできた一匹の魚を、二人で分け合うような暮らしなのだ。そんな中、男の子が町の闘牛場で清掃員の仕事を見つける。そして、この映画の中、ぼくが一番好きなシーンになる。


満員の観客の中に少女の姿がある。始まった闘牛に立ち上がって熱狂する観客の中、彼女だけが、ぽつんと一人座ったままでいる。見事なファエナで牛が殺され、マタドールが退場したあと、次の試合のためにグランドの清掃が始まる。興奮していた観客は一人二人と腰を下ろしてしまう。そんな中、少女が勇敢にも、一人立ち上がる。そして箒を持ってグランドに現れたその少年に、彼女は歓声を上げ、誇らしげに拍手を送るのだ。


ぼくはこのシーンを思い出すと、急に素っ裸になったような気がする。もしもぼくがグランドを清掃するとして、誰がこの観客の中、立ち上がってくれるだろうか?そして、その立ち上がってくれる人を、ぼくはこの少年のように大切にしてやれるだろうか。





2007年9月20日木曜日

湖上 / 中原中也



ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。


沖に出たらば暗いでせう、
櫂から滴垂る水の音は
昵懇しいものに聞こえませう、
あなたの言葉の杜切れ間を。


月は聴き耳立てるでせう、
すこしは降りても来るでせう、
われら接唇する時に
月は頭上にあるでせう。

あなたはなほも、語るでせう、
よしないことや拗言や、
洩らさず私は聴くでせう、
けれど漕ぐ手はやめないで。

ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう、
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。

2007年9月12日水曜日

ALL THINGS MELLOW IN THE MIND / DUANE MICHALS



ALL THINGS MELLOW IN THE MIND,
A SLEIGHT OF HAND, A TRICK OF TIME.
AND EVEN OUR GREAT LOVE WILL FADE,
SOON WE'LL BE STRANGERS IN THE GRAVE.

THAT'S WHY THIS MOMENT IS SO DEAR.
I KISS YOUR LIPS, AND WE ARE HERE.
SO LET'S HOLD TIGHT, AND TOUCH AND FEEL,
FOR THIS QUICK INSTANT, WE ARE REAL.