2012年4月7日土曜日

Endzeit und Zeitende / Gunter Anders



彼は古い粗衣を身に纏い、頭から灰をかぶった。これは、愛する子供か配偶者を亡くした者にしか許されていない行為だった。ここぞというときの衣装を身につけ、苦しみを演じながら、ノアは再び街に向かった。住民たちの好奇心、悪意、盲信を、上手く逆手にとって見せるぞと覚悟を決めていた。ほどなく、ノアのまわりには野次馬たちが群がってきて、口々に質問を浴びせ出した。誰か亡くなったのか、誰が亡くなったのか、と人々は尋ねた。ノアは、多くの人が亡くなった、しかも亡くなったのはあなたたちだと答え、聴衆はこれに大笑いした。「その破局はいつ起きたんだ?」と尋ねられると、ノアは「明日だ」と答えた。


人々がいよいよ注視し、狼狽すると、これに乗じてノアはもったいぶって立ち上がり、こう語った。「明後日には、洪水はすでに起きてしまった出来事になっているだろうがね、洪水がすでに起きてしまったときには、今あるすべてはまったく存在しなかったことになっているだろう。洪水が今あるすべてと、これからあっただろうすべてを流し去ってしまえば、もはや思い出すことすらかなわなくなる。なぜなら、もはや誰もいなくなってしまうだろうからだ。そうなれば、死者とそれらを悼む者の間にも、なんの違いもなくなってしまう。私があなたたちのもとに来たのは、その時間を逆転させるため、明日の死者を今のうちに悼むためだ。明後日になれば手遅れになってしまうからね」。こう言って彼は自宅に戻り、身につけていた衣服を脱ぎ、顔に塗っていた灰を落とし、自分の工房に入っていった。晩になると、一人の大工が扉をたたき、こう言った。「方舟の建造を手伝わせてください。あの話が間違いになるように」。さらに夜が更けてくると、今度は屋根職人がこう言って二人に加わった。「手伝わせてください。あの話が間違いになるように」。