2006年4月19日水曜日

Mediocrite / Jules Laforgue



永遠のきらめきに満ちた無限の中、
一個の原子のように埋没し、知る人もなく孤立して、
余命数日にすぎぬ1つの塊、それは地球と呼ばれ
寄生虫を乗せ、広漠たる奈落へと飛翔してゆく。

その息子たち、青ざめて、熱っぽく、労苦に鞭うたれながら
歩んで行く。この壮大なる神秘には彼らは無頓着なのだ、
そして埋葬される仲間のひとりが通るのを見ても
会釈をし、べつに驚愕で身の毛もよだつふうではない。

その大半はただ生きては死に、地球の歴史も
永遠の栄光包まれた自己の悲惨も、
太陽が死に瀕するとき、味わうであろう己が苦悩も気にしない。

宇宙の眩暈よ、永遠にお祭気分の空よ!
なにひとつ、彼らは知ることはあるまい。しかも
どんなに多くの者が、自分の惑星を訪れもせず去ることか。


2006年4月7日金曜日

Veillee d’hiver / Jules Laforgue



みなは眠る。眠れないぼく、「地球」の心臓さ。
空を見ようとカーテンを開ける、
月は大きなひなげしのように赤く、
遠くの屋根は屍衣の襞さながらに白い。

月は大きなひなげしのように赤く……
ぼくはとても薄着の乞食たちの身を案じる
屍衣がまた覆ったあの白い屋根の下で、彼らも
火のぬくもりや暖かな寝床をもたぬのだろう。

とても薄着の哀れな乞食たちよ、
どこにも火のぬくもりや暖かな寝床のない君たち、
果てしないすすり泣きを神に聞かせるでない、
ひとりぼっちで回る土塊の上に、みんないるのさ。

ぼくのように、果てしないすすり泣きをこらえろ……
ああ!ぼくのはもっと大きい。でも黙らせた。
地球は空を飛ぶ、ひとりぼっちの土塊のように……
ーーー今、あの高みで、神は何を夢みているのだろう?


Tout dort. Je ne dors pas, moi, le coeur de la Terre.
Pour regarder au ciel j'ecarte mon rideau,
La lune est rouge ainsi qu'un grand coquelicot,
Au loin les toits sont blancs comme aux plis d'un suaire.

La lune est rouge ainsi qu'un grand coquelicot...
Je songe aux gueux vetus d'un habit tres-sommaire
Et qui, sous ces toits blancs que recouvre un suaire
N'ont pas ainsi que nous bon feu tiede et lit chaud.

O pauvres gueux vetus d'un habit tres-sommaire,
Qui n'avez nulle part bon feu tiede et lit chaud,
Ne criez pas vers Dieu votre eternel sanglot,
Nous sommes sur un bloc qui roule, solitaire.

Ravalez comme moi votre eternel sanglot,...
Ah ! le mien est plus grand ; portant j'ai du le taire.
La terre vole aux cieux comme un bloc solitaire...
ーーー A quoi Dieu reve-t-il, en ce moment, la haut ?





2006年4月6日木曜日

日の光 / 金子みすず



おてんと様のお使いが
そろって空をたちました。
みちで出合ったみなみ風、
何しにどこへ、とききました。

一人は答えていいました。
この明るさを地にまくの、
みんながお仕事できるよう。

一人はさもさもうれしそう。
私はお花を咲かせるの、
世界をたのしくするために。

一人はやさしく、おとなしく、
私は清いたましいの、
のぼる反り橋かけるのよ。

残った一人はさみしそう。
私は影をつくるため、
やっぱり一しょにまいります。


2006年4月4日火曜日

Soir de carnaval / Jules Laforgue



ガス燈ともるパリはばか騒ぎ。大時計が弔鐘のように
一時を打つ。歌え!踊れ!人生は短い、
全て儚いーーーそれに、見あげてごらん、「月」が夢みているよ
「人間」など影も形もなかった時代と変わらぬ冷たさで。

ああ!月並みな生きざまだ!全ては一瞬燦いて、消える、
「真実」や「愛」の錯覚でいつまでもぼくらをたぶらかしながら。
ぼくたちのこの生きざまは続くだろう、地球のほうが
天に向かって炸裂し、痕跡もとどめぬ時が来るまで。

あのような叫び、泣き声、高慢なファンファーレの谺、
「歴史」が語るバビロン、メンフィス、ベナレス、
テーベ、ローマなど、今や花の種を風が運ぶ廃墟の街々の、
谺をいったいどこに呼び覚ましたらいいのだろう?

そしてこのぼく、こののち幾日生きるだろう?
大地に身を投げ、ぼくは叫び、戦くのだ、
いかなる神も救ってはくれぬ薄情な虚無の中で、
永遠に眠りこんでしまった黄金世紀を瞼に浮かべて!

今、穏やかな闇の中で、ここまで聞こえる
響く足音、泥酔した労働者の憂鬱な、常軌はずれの
歌声。祭りからのご帰還に、またどこか
あやしげな場所へとあてずっぽうに足を運ぶのだ。

おお!人生は淋しいな、癒しようもなく淋しすぎる!
人間どもの祭りのたびに、ぼくはすすり泣いた:
« 空しいな、空しいな、何もかも空しすぎるよ!»
ーーーそして考えた:ダビデの灰はどこにいってしまったか?




Paris chahute au gaz. L'horloge comme un glas
Sonne une heure. Chantez! dansez! la vie est brève,
Tout est vain, - et, là-haut, voyez, la Lune rêve
Aussi froide qu'aux temps où l'Homme n'était pas.

Ah! quel destin banal ! Tout miroite et puis passe,
Nous leurrant d'infini par le Vrai, par l'Amour;
Et nous irons ainsi, jusqu'à ce qu'à son tour
La terre crève aux cieux, sans laisser nulle trace.

Où réveiller l'écho de tous ces cris, ces pleurs,
Ces fanfares d'orgueil que l'Histoire nous nomme,
Babylone, Memphis, Bénarès, Thèbes, Rome,
Ruines où le vent sème aujourd'hui des fleurs ?

Et moi, combien de jours me reste-t-il à vivre ?
Et je me jette à terre, et je crie et frémis
Devant les siècles d'or pour jamais endormis
Dans le néant sans cœur dont nul dieu ne délivre!

Et voici que j'entends, dans la paix de la nuit,
Un pas sonore, un chant mélancolique et bête
D'ouvrier ivre-mort qui revient de la fête
Et regagne au hasard quelque ignoble réduit.

Oh! la vie est trop triste, incurablement triste!
Aux fêtes d'ici-bas, j'ai toujours sangloté :
« Vanité, vanité, tout n'est que vanité! »
ーーーPuis je songeais : où sont les cendres du Psalmiste?



2006年4月3日月曜日

水たまり / 村八分



日が暮れるまで
夕焼け見てた
ぼろぐつはいて眺めてた
がきの頃を思い出して

しゃぼん玉吹いてきえた
吹かれてすぐ音一つ
おちる下に 水たまり

風に吹かれて水たまり
風に吹かれて吹きだまり
おちる下に水たまり


2006年4月1日土曜日

Az en menyasszonyom / Ady Endre



その人が、通りにたたずむ女でも、後悔はない、
ただ、墓に入るまで側にいてほしい。

暑い燃え立つ夏の日に、ぼくの前に立ち、言ってほしい、
「愛しているわ、わたしが待っていたのはあなた」

追い払われ、追放される者になれ、浮かれ女よ、
だが、時折は、ぼくの心に寄り添ってほしい。

吹きすさぶ嵐の中で、呪いつつ共に立つ時あれば、
二人して、足を絡ませ、倒れていこう。

いかなる時も、ぼくたちの魂が満たされているのなら、
互いの唇に祝福と喜びを絶やすまい。

ぼくがもし、通りの埃になってしまうのなら、
ぼくの方に身を屈め、ぼくを抱き、見守ってほしい。

清らかな、聖なる炎が燃え上がる時あれば、
宇宙の彼方へと共に飛び立っていこう。

絶えずキスをしてほしい、絶えず愛してほしい、
涙と、汚れ、苦しみと、泥の中で。

すべての夢が叶わなかったら、
夢を返してほしい、それがぼくの人生となるように。

化粧した彼女の顔が天使の顔に見える、
彼女はぼくの魂となり、人生となり、死となろう。

すべての石板と鎖を打ち砕き、
死の時まで、ざわめく世界をあざ笑おう。

最後の別れを告げながら、共に笑い、
互いを神としつつ、共に死にたい。

こう言いながら、死にたい。
「人生は罪と汚濁、
だが、ぼくらは清らかで無垢だった」