2005年8月20日土曜日

六十二のソネット / 谷川俊太郎



世界が私を愛してくれるので
(むごい仕方でまた時に
やさしい仕方で)
私はいつまでも孤りでいられる

私に始めてひとりのひとが与えられた時にも
私はただ世界の物音ばかりを聴いていた
私には単純な悲しみと喜びだけが明らかだ
私はいつも世界のものだから

空に樹にひとに
私は自らを投げかける
やがて世界の豊かさそのものとなるために

……私はひとを呼ぶ
すると世界がふり向く
そして私がいなくなる


2005年8月19日金曜日

無題 / 難波田史男



夕日が西の空に沈んでゆく
空が青から紫になって
そして黄色に染まって……
それはひとときも止どまらず
たえず変化してゆくその美
そしてまたたく間に消え去ってしまうその美しさ
滅びゆくものへの愛情
いや そんなことを言うのはもうよそう
死の意識は
誰でも抱いていることなのだから


2005年8月18日木曜日

終わりの季節 / 細野晴臣



とびらの影で 息を殺した 微かなことばは「サヨナラ」
6時発の貨物列車が 窓の彼方で ガタゴト
朝焼けが、燃えているので 窓から招き入れると
笑いながら、入り込んできて 暗い顔を赤く染める
それで、救われる キモチ

今頃は終わりの季節 つぶやく言葉は「サヨナラ」
6時起きのあのひとの顔が 窓の彼方で チラチラ
朝焼けが、燃えているので 窓から招き入れると
笑いながら、入り込んできて 暗い顔を赤く染める
それで、救われる キモチ