2005年11月1日火曜日

The Violin Player / Charles Bukowski



その男は二階の正面観覧席にいた
コーナーをはずれた
観衆が伸びをする
観覧席の端に。

男は小柄で
ピンク色で、禿で、肥っていて
六十代だった。

男はヴァイオリンを弾いていた
男は自分のヴァイオリンで古典音楽を
弾いていた
そして競馬ファンは男を無視した。

バンカー・エージェントが第一レースを勝った
そして男はヴァイオリンを弾いた。

キャン・フライが第三レースを勝った
そして男はヴァイオリン演奏をつづけた。

コーヒーを飲みに席を離れもどってくると
男はまだ演奏をしていた、そしてブーメランが第四レースを勝ったあとも
まだ演奏していた。

だれも男をとめなかった
だれもなにをしているのか男に尋ねなかった
だれも拍手しなかった。

ポーウィーが第五レースを勝ったあと
男は観覧席の上に落ち風と日の光のなかへ
消えていく音楽を
つづけた。

スターズ・アンド・ストライプスが第六レースを勝った
そして男はさらに演奏した

そしてストーンチ・ホープが第七レースで内側を進んで
勝った
そしてヴァイオリン弾きはせっせと弾きつづけた
そしてラッキー・マイクが第八レースを4−5で勝ったとき
男はまだ音楽を演奏していた。

ダンプティズ・ゴッデスが最終レースをとって
すっからかんで
観衆が自分の車へのだらだらした長い歩行を開始したあとも
ヴァイオリン弾きは観衆の背中に
音楽を送りつづけた
そしておれはそこにすわって耳を傾けた
おれたちはふたりともひとりぼっちでそこにすわっていた

男が演奏をやめたときおれは拍手した。
ヴァイオリン弾きは立ち上がり
顔をおれの方へ向けてお辞儀した。
それからヴァイオリンをケースに入れて
立ち上がると男は階段を下りていった。

おれは数分間男を行かせてから
立ち上がると
自分の車までのだらだらした長い歩行を始めた
だんだんと夕暮れになっていった。

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