2008年7月17日木曜日

Modal Soul / Nujabes



地平線の五ミリ手前で珊瑚の環礁は外海からの荒波を顔色一つ変えずに防いでくれている
その防衛線を境にこちら側には太陽の光をエメラルド色に反射する遠浅の海が広がっている
外海からの波は、珊瑚に打ち消される波のかわりに砕ける際の激しい音を僕たちに届ける
それはいつまでも隣の県にとどまっている台風のようにも感じられる
このアルバムを仕上げる直前にそんな景色を見た

激しさとおだやかさ
保護される側とさらされる側
僕らは無数の対極のあいだの点を掛け合わせた存在の一つといえるかもしれない
縮小を続けるものがあり、拡大を続けるものがある
僕らはその間で振動し続ける
振動は体の内側で反響し、魂を彫刻的なシェイプに磨き上げる

現像された魂のシェイプは世界をふらりと漂流する
僕の耳には沢山の音が旅をしてきた
そしてまた少し腰を落としてから旅へ出る
あるときはあなたの耳へ
まるでどこかへ向かうように まるでどこかへ帰るように
人の心のうつろいそのままに世界を浮遊する

僕らは地平線が見えるのにドアの先が見えない
星が見えるのに僕らがなにものかも知らない

We are blind man of our own world

最近、世界の全てが奇跡のように見えるときがしばしばある
それはきっと 今見ているこの世界を数年後には夢のように思い返すような道を彼らが、
そして僕らが選び続けていることに関係している

Thank you, flowers / Light on the land / Horizon

僕は環境とか健康に特にストイックな方ではないけれど、
地球が確実に病気を煩っていることを気にとめないで
今までのように過ごすことは出来なくなった

We have to see The Sign

僕らの足下にいつも存在する親愛なる友人は病にかかって、咳をしている

全ての音楽は地球が奏でてくれている

音楽は僕らと共にあり、僕らは音楽と共にある

We're tribe living with music

Music is mine / music is yours




2008年7月3日木曜日

二十歳のエチュード / 原口統三



「数学ほど、私に明晰に見えるものはない。」
このやうな言葉の前に僕は意地悪かつた。
より明晰なこととは、より冷たい眼を持つことであると僕は考へた。この「冷たい眼」を僕は自意識と名づけた。
一切の「許容」「妥協」「弱気」これを僕は「曖昧さ」と名づけた。
そこで僕は「形式」を持たねばならぬ、といふこと、「生きるとは何らかの意匠を与へられることだ」といふ問題の前に腕組みした。そこでこの「許容」に身を以てぶつかることだつた。
僕の純粋さが、懐疑の最も冷たい眼、即ち「死の眼」を持つことを要求したのだ。

認識するとは、我々が生れ落ちる時に与へられるもの、即ち、豊かな生命の衣を少しづつでも剥いでゆくことではないのか。自ら血を流す、とはこのことなのだ。

血は絶え間なく流れて、刻々に僕の身体は冷えて行つた。
精神のより深奥を目指して進むものは、より「生きること」から遠ざかるのである。