その夜、ぼくはノートを広げて待った。ぼくの詩がどこからか蝶の群れのように降ってくるのを。いくら大陸を渡る蝶だって、いずれは羽を休めに降りてくるはずだ。
詩にできれば、ぼくの心はすっかり軽くなるはずであった。ぼくはそういう男なのだ。
ぼくのお国は詩の中にある。それなら渡り鳥と同じ、国境などどこにあろう。
ノートは一行も埋まらなかったが、ぼくは失望などしていない。このことを書く言葉が、まだないというだけだ、このぼくの中に。いずれ満たされるだろう、あの夜のように。
今はないその言葉に、きっとぼくの祖国はあるのだ。パンチョ・ビリャの腰の物のように。うそぶくな黒い拳銃。ああ、俺はひとりになってやる。
偽るな我が旅路を。俺には行く手がある。
0 件のコメント:
コメントを投稿