2007年12月18日火曜日

小生物語 / 乙一



3月5日

今日もまた「こんなことしている場合じゃないのに」の練習をした。いつにもまして熱のこもった「こんなことしている場合じゃないのに」だった。それから久しぶりに「少しだけの仮眠のはずだったのに」をやろうとした。90分の仮眠をとろうとしたらうっかり8時間も眠った。自分もなかなか「少しだけの仮眠のはずだったのに」が上達したなと思った。




2007年9月22日土曜日

最後の息子 / 吉田修一



小学生の頃、偶然テレビで見た「フレンズ」という映画を、最近よく思い出す。この映画は、ぼくや右近、それに大統領が生まれた年に撮られたもので、フランスの田舎町が舞台になっている。優れた映画だとは言えないが、生涯忘れられないだろう、あるシーンをぼくはこの映画の中に持っている。


これは、家出をした十四歳の男の子と女の子が、田舎で二人だけの暮らしを手に入れようとする物語だ。廃屋に住みついた金もない彼らは、愛だけで暮らしていこうとする。しかし、そんな生活が長続きするわけもない。男の子が市場から盗んできた一匹の魚を、二人で分け合うような暮らしなのだ。そんな中、男の子が町の闘牛場で清掃員の仕事を見つける。そして、この映画の中、ぼくが一番好きなシーンになる。


満員の観客の中に少女の姿がある。始まった闘牛に立ち上がって熱狂する観客の中、彼女だけが、ぽつんと一人座ったままでいる。見事なファエナで牛が殺され、マタドールが退場したあと、次の試合のためにグランドの清掃が始まる。興奮していた観客は一人二人と腰を下ろしてしまう。そんな中、少女が勇敢にも、一人立ち上がる。そして箒を持ってグランドに現れたその少年に、彼女は歓声を上げ、誇らしげに拍手を送るのだ。


ぼくはこのシーンを思い出すと、急に素っ裸になったような気がする。もしもぼくがグランドを清掃するとして、誰がこの観客の中、立ち上がってくれるだろうか?そして、その立ち上がってくれる人を、ぼくはこの少年のように大切にしてやれるだろうか。





2007年9月20日木曜日

湖上 / 中原中也



ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。


沖に出たらば暗いでせう、
櫂から滴垂る水の音は
昵懇しいものに聞こえませう、
あなたの言葉の杜切れ間を。


月は聴き耳立てるでせう、
すこしは降りても来るでせう、
われら接唇する時に
月は頭上にあるでせう。

あなたはなほも、語るでせう、
よしないことや拗言や、
洩らさず私は聴くでせう、
けれど漕ぐ手はやめないで。

ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう、
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。

2007年9月12日水曜日

ALL THINGS MELLOW IN THE MIND / DUANE MICHALS



ALL THINGS MELLOW IN THE MIND,
A SLEIGHT OF HAND, A TRICK OF TIME.
AND EVEN OUR GREAT LOVE WILL FADE,
SOON WE'LL BE STRANGERS IN THE GRAVE.

THAT'S WHY THIS MOMENT IS SO DEAR.
I KISS YOUR LIPS, AND WE ARE HERE.
SO LET'S HOLD TIGHT, AND TOUCH AND FEEL,
FOR THIS QUICK INSTANT, WE ARE REAL.




2007年8月28日火曜日

CERTAIN MOTS DEVAIENT ETRE DITS / DUANE MICHALS



Les Chose étaient devunues impossibles entre elles
et rien pouvait plus être 'sauvé'.
Certain mots devaient être dits,
et bien que chacune se soit dit ces mots-là cent fois en silence,
ni l'une ni l'autre m'avait le courage de les dire à l'autre à voix haute.
C'est pourquoi elles s'étaient mises à esperer
que quelqu'un d'autre pourrait dire les mots nécessaire à leur place.
Peut-être une lettre pourrait arriver,
ou bien ce serait un télégramme délivré de la part d'un étranger
qui dirait ce qu'elles ne pouvaient pas dire.
Maintenant elles passaient leurs journées à attendre.
Qu'est-ce qu'elles pouvaient faire d'autre?


2007年8月10日金曜日

うたうたいは / 竹内浩三



うたうたいは うたうたえと きみいえど 口おもく うたうたえず。

うたうたいが うたうたわざれば 死つるよりほか すべなからんや。

魚のごと あぼあぼと 生きるこそ 悲しけれ。




2007年7月31日火曜日

波よせて / Small Circle of Friends



ウェイバー ウェイバー ウェイバー ララ はじけてく
ウェイバー ウェイバー ウェイバー ララ はじけてく

それは晴れた日の夜の事 フラリ立ち寄る人ごみの中を
ダンスホール 放たれる光線 背中に受け横に立つ少年
キラリ光る白い歯見せつつ 話しかける言葉は少なく
冷めながらも熱く語る姿 なにかしら心ひかれる僕は
手招くままに店をあとに 彼の運転するクルマ飛び乗り
行き先人気のない海へ たどり着き少年やおらキメゼリフ
「海の向こうに何がある?」口にすると同時 服のまま飛び込む
月の光りのじゅうたんの上を 彼はなめらかに滑っていくよ

波よせて 波よせて 君は行く 君は行く
誘われて 誘われて 君は行く 君は行くんだね

ウェイバー ウェイバー ウェイバー ララ はじけてく
ウェイバー ウェイバー ウェイバー ララ はじけてく

波打ち際をさかいにこっち そっち会話をする僕ら二人ぼっち
空を見上げ浮かぶ彼の口に 未来のあこがれが水しぶき
バラ色な風景そこに見える 大いなる素晴らしき日々叶える大陸が
きっとこの先へ ずっとこの先へ
海の向こう側へと行けばあると信じてる少年の指差す方向僕には見えず
暗闇の恐怖だけが映る 何も言えず立ちすくみうなずく
そんな僕許すように微笑み 一つの目的果たさんがゆえに
旅立ちのとき むかえて一言「それじゃあ、そろそろ行ってくるよ」

波よせて 波よせて 君は行く 君は行く
誘われて 誘われて 君は行く 君は行くんだね

やがて彼の姿 アワとなり海と一つになる
地平線の向こうへ泳いで旅をしてるのさ また会う事もないだろう
そんな予感を持ちながら 僕は来た道を帰る いつものあのぬくもりへと

ウェイバー ウェイバー ウェイバー ララ はじけてく
ウェイバー ウェイバー ウェイバー ララ はじけてく




2007年6月8日金曜日

毎朝、ぼくの横にいて / 所ジョージ



夢なんか語りだしたら みっともないよね
叶いかけたときに 言い出せるくらいかね

思い出はなし出すなら 今以下のことをね
今以上のことなんか 聞いててかったるい

2007年5月26日土曜日

インストバンドの唄 / SAKEROCK



手足のない人や
目と耳が動かない人は
どんな風に
踊ればいいの?

声のない人や
目と耳が聞こえない人は
どんな風に
歌えばいいの?

わからない ごめん
僕らはインストバンドさ
どんな風に
歌えばいいの?




2007年4月11日水曜日

曇天 / 中原中也



 ある朝 僕は 空の 中に、
黒い 旗が はためくを 見た。
 はたはた それは はためいて ゐたが、
音は きこえぬ 高きが ゆゑに。

 手繰り 下ろさうと 僕は したが、
綱も なければ それも 叶わず、
 旗は はたはた はためく ばかり、
空の 奧処に 舞ひ入る 如く。

 かゝる 朝を 少年の 日も、
屡々 見たりと 僕は 憶ふ。
 かの時は そを 野原の上に、
今はた 都会の 甍の上に。

 かの時 この時 時は 隔つれ、
此処と 彼処と 所は 異れ、
 はたはた はたはた み空に ひとり、
いまも 渝らぬ かの 黒旗よ。


2007年4月9日月曜日

傘 / 板尾創路



雨が降ると ゾンビは
赤い傘をさすだろう

雨が降ると 虚弱児童は
若い母親の迎えを待つだろう

雨が降ると 甲は乙に対して
乙が考えている以上のことをするだろう

雨が降ると バースデーケーキは
ローソクが一本多い方がいいだろう

雨が降ると 年上の女房は
ディズニーランドが空いていると言うだろう

雨が降ると 雨男は
その日は外食をする事が多いだろう

雨が降ると 男達は
ある女の事を思い出すだろう

雨が降ると 想い出は
心の中に根付くだろう

雨が降ると 傘をさすのが いいだろう



2007年2月16日金曜日

A Part of the Sky / Robert Newton Peck



お茶を飲むと、寒さのきびしい夜だったがぼくたちは抱き合うようにして外に出て、冬空の下に立った。風は止んでいた。天使が降りてきそうな夜だ。ぼくたちの上では満天の星が輝いている。まるで神様が腕を大きくひとふりして、天の種まきをしたかのようだ。


星の光は賛美歌を歌っているようだった。


ぼくは両脇に立っている母さんとキャリー伯母さんを抱きしめ、今までぼくを祝福してくれたあらゆる実りに感謝をささげていた。感謝で胸がはち切れそうだ。ぼくは自分が大きくたくましくなったように感じていた。ジャンプすれば星をもぎとってポケットにかくし、おもちゃにしてしまうことさえできそうだった。


星は黄色く白く輝いている。十二月の星のなかにひとつだけ、生まれたばかりのような星がみえた。ぼくは思わず指さした。母さんとキャリー伯母さんもつられて顔をあげると、敬虔な気持ちでその神秘的な光をみつめた。


「ほら」ぼくはいった。「あの金も銀もみんなぼくたちの宝物なんだ」





2007年2月13日火曜日

Hier / Agota Kristof



昨日は、すべてがもっと美しかった
木々の間に音楽
ぼくの髪に風
そして、きみが伸ばした手には
太陽


Hier tout était plus beau
la musique dans les arbres
le vent dans mes cheveux
et dans tes mains tendues
le soleil