2005年7月7日木曜日

一億三千万人のための小説教室 / 高橋源一郎



「生徒のみなさんへ。

 天気がいいので、ちょっと散歩してきます。
 その間に、あなたの小説を書いておいてください。
 書き終えたら、机の上に置いて、そのまま、家に帰ってもかまいません。詳しい感想は、あとで、手紙で送ります。

 プレゼントを一つ。
 最初の行をどう書いていいか、わからなかったら、こういうのはどうでしょう。

 「ハッピー・バースデイ」僕の父がいった。
 彼は外套のポケットから一冊の本を取り出して僕に渡した。

 その出だしは、この前、読んだって?

 いいではありませんか。書きはじめる時には、だれだって肩に力が入るのです。だったら、そこだけ、他人の力を借りても。書き終わってから、感謝をこめて、借りた出だしを直して、返せば、なんの問題もありません。

 早く読んでみたいな、あなたたちの小説を。」

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