2005年7月5日火曜日

Mexicans Begin Jogging / Gary Soto



工場で、ぼくは働いていた
ゴムの破片にまみれ、黄色い炎をあげる
釜戸の熱に身をかがめながら。
するとワゴン車から国境警備隊が飛び出してきた。
工場長は腕を振って「逃げろ」とぼくたちに合図、
「ソト、フェンスをよじ登るんだ」とどなるので
アメリカ市民ですよ、ってぼくは大声で言い返す。
「バカヤロ!冗談言ってるときかぁ」と言って、
ぼくの手に一ドル札を握らせて、
裏口へ急きたてた。

上司の命令ではしょうがない、ぼくは走り出し
逃げるメキシコ人たちの最後尾でおとりになったーーー
道ばたに驚いた通行人たちがズラリと並んでいたっけ
人垣がピンボケ写真のように遠ざかり、雨が降り出した。
工場街をぬけて、閑静な
住宅街へ出ると、急変した秋の空模様に顔色を失った面々。
ぼくはベースボールとかミルクセーキとか社会学者に向かって、「万歳!」と叫ばずにはいられなかった。
だって彼らがタイムカードでぼくを測定してるあいだに、
こっちは来世紀に向けてジョギングをはじめたのだから、
何か、とてつもなくアホっぽい笑みを顔に浮かべて、ね。

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