2009年2月25日水曜日

ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ / SPANK HAPPY



あなたの国は、小さい子のヌード写真がおおすぎるって、どのパーティーでもいわれた。
街中に裸の女の子の写真があふれていて、電車の中にまでつってあるのは絶対おかしいって。
でも、まさかそのうちの一人があたしだってことは、誰も気づかなかった。
あたしはこういう所に集まるマダム達は、エメラルドを頭にいっぱいつけすぎて
馬鹿になっちゃったんだって思って育ったの。

パパは「この国には肉食の文化が無いから。
みんな我々のように乳のみ仔牛から腐りかけの成牛までの、いろんな肉の味わいの差だとか、
ジビエの血の味の事とかが解らない。
だから子供の裸ばかりを有り難がるんだ。
一種の国家的変態だよ」っていうお得意の演説で、
腐りかけの成牛みたいなママを喜ばせてる。
彼女はキャビアを食べている人を見ると鼻をつまむ。
小さな卵を食べるのは野蛮人だって。

フォクシー1粒でアダルトヴィデオの女の子みたいになれるってきいたから、
あたしは自分を魔女だっていってる友達に頼んで、パーティーに持ってきて貰い、
最高に良く効きますように。そしてあこがれのトレーシーみたいになれますようにって
魔法をかけてもらってから、彼女とキスをして、コアントローで飲みほした。
どこかで生きていれば35になるのね。あたしのトレーシー・ローズ。
あなたは、あたしが知るかぎり本当の天才。そして天使。

あなたとパパの書斎で出会った日のことは一生忘れないわ。
黒革の表紙の本の裏に隠されていた80年代のVHS。
あのヴィデオキャセをパパから盗んでから、あたしの人生は変わった。
あれがバイブルになったの。
あたしは今、あなたがデビューした年と同い年で、あなたの娘ぐらいの年だわ。
そう思うと、とっても変な気分。
まだフォクシーは全然効いて無いみたい。
口の中は、熱いチェリーの味ばっかり。

生きてれば74歳になるのね。あたしのグレース・ケリー。
生きてれば15歳に成るのね。あたしのジョンベネ・ラムジー。
あなた方の事を考えると、死ぬほどうっとりして、死ぬほど憂鬱になるの。
パパの命令でお医者様にマリリン・モンローそっくりに改造されたり、
本当にある国の王女になるなんて絶対に間違ってる。
でも死ぬほど羨ましい。そして死ぬほど怖い。
あたしはこんなに死ぬほど羨ましくて、死ぬほど怖くて、死ぬほど退屈。

ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ

たくさん血が出たり骨を折っちゃったりするのは僕の時代にはあんまり好まれなかったんです。
フェティッシュとか、精神分析とか、そういう詰まらないものが流行っていて。
でも、彼女達が好きなものが結局、宝石と香水と毛皮だって事は永遠なんですよ。
裸に毛皮だけ着せて、香水の瓶を割って、お腹を軽く傷つける。
詰まらないプレイですけど、効果は凄いんです。
真っ赤な血がうっとりするような香りで。

宝石も勿論たくさん使いました。
トパーズ、アメジスト、オパール、こういう物には、水晶以上の魔力と、
生体科学的な影響力があって、まあ、若返るんだと。
こういう話をすると、馬鹿にして嘲けり笑っている連中ほど、瞳孔が開いているのが解る。
後で必ず呼び止められるから絶対。
それで、彼女達の宝石箱から一つ残らず出させてね。
身につけさせるんじゃないですよ。体の中に入れてゆくんです。

滑稽といえば滑稽だし、でも芸術的とも言える。
お腹を宝石でパンパンにしたご婦人が喘いでるんですから。
勿論、楽しくも何ともなかった。気持ちよくも何ともなかった。
嬉しくも何ともなかった。
この国の社交界の一部では、こういったことが何百年も続いてるんだなって思うと、
変に敬虔な気持ちにさえなりかけたもんです。
日本人だからでしょうね。
僕は20歳過ぎてたんだけど、誰もが15歳ぐらいだと思っていて。

最近はちゃんとクラブがあったりするんですよ。
卓もサウンドシステムもすごく充実していて。
ヴァルスやポルカが終わると、変な、聴いたこともないオーストリア語のハウスみたいのがかかるんですけど、
みんなハイヒールに革靴だし、っていうか、踊りが凄くて、
笑うのを我慢するのに苦労しました。
嫌な感じの嘲笑しかできないから。
生まれてからずっとそうなんです。
復讐心ですか?どうだろう。今の東京の子供に比べればね。

アメリカのポルノ女優に憧れてる。っていう日本人の女の子が居て、
さっきフォクシー飲んだの。って、
この子は全然踊って無くて、目をトロンとさせて、年寄りばっかり狙ってた。
世界中に行ったけど、どこも何も変わらない。
俺みたいになるなよ。って誰かに思ってた頃もあったんですけど、
今はそんな誰かも居ない。
生まれて初めてです。自分からキスしたいなって思って。
でも諦めました。彼女は消えてた。

ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ





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